Home / 歴史幻想 / ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~ / 第十八話 春に舞う乙女たち

Share

第十八話 春に舞う乙女たち

last update Last Updated: 2025-07-18 09:20:54

第十八話   春に舞う乙女たち

 正月が過ぎ、厳しい寒さを抜けて春がやってきた。

 この春を境に梅乃と小夜は十一歳となる。

 誰も二人の誕生日を知らない訳で、春に拾った子だからと言うことらしい。

 明治初期、少しずつ江戸の名残が薄くなっていった。

 世間では、奉行から警察と呼ばれるようになり姿も変えている。

 「梅乃~」 声を掛けてきたのは花緒である。

 「花緒姐さん、おはようございます」 見世の前に出ていた梅乃を追いかけるように花緒も外に出てくる。

花緒は、以前に勤めていた近藤屋から買い取った妓女である。

四人の妓女が三原屋に来たが、花緒だけが梅乃と よく話す仲であった。

他の妓女より端正な顔立ちで、可愛いより綺麗タイプの妓女である。

「梅乃~ 昼見世の時間、外から見て目立つように助言を貰えないだろうか……」 珍しく花緒がアドバイスを求めてきた。

「あの……私、男でもないし、妓女でもありませんが……」 梅乃が困っていると、

 「梅乃って、見る目あるじゃない。 少しだけでいいから~」 

 (花緒姐さんって、美人だけど話すと子供っぽいんだよな~ だから、なんか断りにくいんだよな~) 梅乃は困りながらも

「わかりました。 後で怒らないでくださいね……」 梅乃は、念を押して承諾《しょうだく》する。

そして梅乃は、花緒が目立つように張り部屋を見ていた。

(こうして見ると、花緒姐さんは地味なのか?)

梅乃から見た花緒は、綺麗ではあるが不思議に目立たなさを感じている。

 「花緒姐さん、なんとなくですが分かります……」 

 「何? どんな?」 花緒が食いついてくると

 「それは、華《はな》です」

 「華?」

「はい。 花緒姐さんは顔立ちが良いのですが、なんとなく華やかさと言うか…… もったいないと思ってしまいました」

「ふむ……」

「すみません。 頭にきたなら叩いて結構ですので……」

 梅乃が頭を差し出す。

「しないわよ! 私から頼んでおいて、出来ないわよ」 花緒は、慌てて両手を振っていた。

「でも、どうしたら華やかさが出るんだろう……」

「少し、外に出てみませんか?」 梅乃は花緒を外に誘って、仲の町を歩いてみた。

 「ねぇ、仲の町を? どうして?」 花緒は、落ち着かない様子で梅乃の後ろを歩いていく。

 「姐さんたちは昼見世の後は芸子の練習をしたりで、あまり外を歩かないじゃないですか。 ここには生きた教材が沢山いますよ♪」

梅乃は、ご機嫌で仲の町を歩く。

すると、 「梅乃じゃないか?」 

そう言って、手を振っている女性がやってきた。 鳳仙である。

「こんにちは。 鳳仙花魁」 梅乃は頭を下げて挨拶をしていると

「こちらは?」 鳳仙が花緒に気づき、梅乃に訊く。

「三原屋の花緒姐さんです」 梅乃が紹介すると

「あんれ? なんか見た事が……」 鳳仙が、花緒をよく見ると

「以前は近藤屋に居ました。 無くなってからは三原屋でお世話になっています」 花緒は自己紹介をして、頭を下げた。

(なんで、鳳仙花魁と知り合いなのよ……なんなのこの子) 花緒は、梅乃を見ては目を細める。

「ところで、鳳仙花魁は何をされているのですか?」

「あ~ 勉強だよ。 妓楼の中だけじゃ、それしか知らないし……それじゃ、女も味が出なくなるだろ?」 鳳仙の言葉で、花緒は頭を打たれたような衝撃が走った。

(だから、この子は連れてきたのか……) 花緒は、梅乃を見てゾクッとしている。

「ちょうどいいです。 ほら、華やかな人……」 梅乃は、ドヤ顔で鳳仙を見せると

「なんだい……そんな事ないよ~」 鳳仙は謙遜している。

「まだ、いっぱい居ますよ。 華やかな人は、えと……」 梅乃が言いかけた所で、高笑いをしている人の声が聞こえる。

「なんだい? あの下品な笑い方は……?」 鳳仙も声に気づく。

“ あ~はっ はっ はっ……久しぶりに良いね~ ”

「まさか……」 鳳仙たちは、声のする方向を見ていると

普通の着物にキセルをくゆらせ、高笑いをしている女が歩いてきた。

「玉芳――?」 全員が声をあげた。

「あんれ~ 梅乃じゃないか~」 玉芳はニコニコして話しかけると

「花魁!」 梅乃は堪《たま》らず、玉芳に抱き着いた。

「お~よしよし♪」 「んっ?」 玉芳が梅乃の頭を撫でながら鳳仙に気づく。

「お~ 鳳仙! 相変わらず綺麗だが身請けはナシかい?」 ニヤリとした玉芳の顔は、悪い人の顔になっていた。

「うるせ~ って、吉原に何の用だよ?」 鳳仙も顔が嬉しそうだ。

「お腹の子が安定してきたから里帰りだよ」 玉芳は、少し出てきた腹を擦《さす》っていた。

「そうか、良かった」

「そうだ、花緒だっけか? ほら、華のあるヤツが来たじゃん!」 鳳仙は、親指で玉芳をさす。

「お久しぶりです。 玉芳花魁」 花緒は、深々と頭を下げると

「あはは、もう花魁じゃないよ」 

その後、話しをしていると芸子が横を通り

「あんれ? 玉芳花魁じゃないですか?」 芸子の一人が話しかけてくる。

「もう、花魁じゃないよ。 そうだ! 折角だし、ここで何か一曲弾いておくれよ」 玉芳は、相変わらずだった。

そして、芸子の二人が三味線を取り出し弾き始めると

「あっ それ♪」 玉芳が踊り出す。

「しょうがないな~」 と、言って鳳仙も踊り出した。

二人が踊っていると、いつの間にか仲の町を歩く人々が、二人を見に集まってきていた。

「なんだい? あの能天気な踊りで目立ちやがって……って、玉芳?」

「お~ 喜久乃~ 一緒にどうだい?」 玉芳が笑顔で喜久乃を誘う。

そして有名人である三人が踊っていると、

“ シャン シャン ” と、音がする。

踊りが終わると、音がした場所には金が置かれていた。

シャン シャンは、お金を投げ入れた音であった。

まさに、現代のストリートダンスのようである。

「たんまり置いてくれたな~」 鳳仙は驚いていた。

「これで、団子でもどうだい?」 玉芳が、ニヤリとする。

「賛成♪」 梅乃はジャンプをして喜んでいた。

「う~ 食った~♡」 みんな満足していた。

「どうだい? 花緒……」 鳳仙が、花緒に訊いていると

「どうって…… 凄いしか言えないです」 花緒は、ここで格の違いを見せつけられたのだ。

(みんな綺麗だけど……ううん、綺麗な妓女なら沢山いる。 でも、この三人は光って見えた……)

これが大見世の花魁であり、菩薩となった女たちの凄さであった。

「そろそろ行くわ♪ 楽しかった♪」 玉芳は、鳳仙と喜久乃に手を振って三原屋に向かった。

玉芳が三原屋に到着するなり、

「ばかやろう!」 采の怒鳴り声がする。

「何よ~ 久しぶりの里帰りなのに~」 玉芳が頬を膨《ふく》らませていると

「だったら、真っすぐに来な! 身重《みおも》のクセに、なんで仲の町で踊っているんだい?」 采の怒鳴り声も懐かしく、シュンとした顔の中にも嬉しそうな玉芳である。

玉芳と采は、久しぶりに会って楽しそうだった。

小夜も布団から出て、玉芳に飛びついていた。

この人気こそが、玉芳を花魁にまで昇らせた秘訣《ひけつ》なんだ…… と、花緒は勉強になった。

「玉芳姐さん、大江様が迎えにきました」

片山が玄関で大声を出すと

「じゃ、行くかね~」 そして、梅乃と小夜が大門まで見送る。

「良い子にしてるんだよ」 玉芳は、母のような目で二人を撫でる。

もう会えないと思っていた二人には、賑《にぎ》やかな春の知らせだった。

玉芳は、会所で手続きをしている。

吉原では男性の出入りは自由だが、女性は違う。

足抜の心配があるからだ。

女性が吉原に入る時に、四郎兵衛会所で手続きをして、出て行く時にも手続きをしなければならない。

本来なら数十分掛かる手続きが、元花魁の玉芳は有名人であり、顔見知りでもある。 ものの数分で完了した。

「またね~」 玉芳は、最高の笑顔で吉原を去っていく。

三原屋に戻った二人は、満足そうな顔をしていた。

「なんか、良い顔してるな」 そんな采も嬉しそうであった。

そんな様子を見ていた花緒は

(花魁になる人は、ああいう人なんだな……私も変わらないと)

玉芳の存在は、三原屋の雰囲気を変える最高の起爆剤《きばくざい》だった。

それから花緒は、昼見世の後に仲の町まで出かけていく。

それは勉強の為である。 

そして、一人、また一人と人数が増えていく。

三原屋の妓女は、昼見世の後に仲の町へ向かっていた。

そして、大人数で歩くことを

“三原屋道中 ” と、呼ぶ人までいるようになる。

まさに 『春の天使』 が吉原に活気を与えた魔法のようであった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第六十三話 采の決断

    第六十三話    采の決断 「あの、采さん? 今なんて?」 「ちゃんと聞いてなかったのかい? 梅乃を鳳仙楼で面倒をみてほしいんだよ」采の言葉に、鳳仙は自身の耳を疑った。「ちょっと待ってくだしんす……梅乃と言えば、三原屋の顔になる禿じゃないですか? どうして?」「あのままじゃ、梅乃は潰れてしまう。 私や小夜とも距離を置いて、自分を見つめ直す期間が必要なんだよ。 医術からも離れ、『本当に自分のやりたいこと』を見つけてほしくてね」采はキセルを吸い出す。「これは、私の勝手な意見でございますが…… 采さんの本心でしょうか?」鳳仙は自信がなかった。 吉原を離れて時間が経っている。 ましてや玉芳の子供を預かることに自信が持てずにいたからだ。「そりゃ、ウチの子だよ。 最後まで育てたいが、今の梅乃には三原屋が窮屈になっちまっている…… これは梅乃の為だからな」采は、自分の心にも説得しているようであった。「それで、玉芳には話していますか?」 「いや……」「わかりました。 鳳仙楼で預かります」 鳳仙が頭を下げると、采は黙って三原屋に戻っていく。鳳仙が大きく息を吐くと、「どうした?」 主人が鳳仙を見る。「生きるって事は大変でありんすな~」 そう言って、伏せっている妓女の面倒を始める。

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第六十二話 押し寄せる悲しみ

    第六十二話 押し寄せる悲しみ 絢の死から一週間が経った頃、三原屋では 「今までの事を見直しな! これは、お前たちの為でもあるんだ!」采は大部屋で妓女たちに話している。 それは『禿を叩くな』ということである。玉芳の言葉も最初は聞き入れるが、つい感情的になって叩いてしまうことを注意していたのだ。 しかし、妓女たちは言葉を聞き流しているようにも見える。それは (私もゲンコツを落としてきたからね~) 采も反省しているようだ。 そして不思議と無傷だった禿がいる。 古峰である。 古峰は采に叩かれたことがない。 ゲンコツすら回避してきた。「そういえば、どうして古峰だけ叩かれなかったんだろう……?」 梅乃と小夜は不思議に思っている。 「う 梅乃ちゃん、小夜ちゃん…… そんな目で見ないで」つい、古峰は心を読んだように言い出すと 「う~ん……」 二人は古峰の言葉を聞かずに悩んでいた。(この悩み方は、いつか私も叩かれればいいと思っているな……) 古峰の勘がそう言っていた。 そして昼見世の時間が終わった頃、 「梅乃、小夜……鳳仙楼に行ってきな! 主人の話でも聞いてやるんだ」 采は見舞いの名目で、三人を鳳仙楼へ向かわせる。 “コンコン ” 梅乃が鳳仙楼の戸を叩く。 「こんにちは~」 梅乃が明るい声で挨拶をすると 「あぁ……梅乃ちゃんに小夜ちゃんか…… この前はありがとな」

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第六十一話 師と子

    第六十一話 師《し》と子《し》 明治七年、冬。 梅乃を指名した定彦が三原屋へやってくる。 「うわ~ 綺麗……」 早くも定彦は注目を浴びてしまう。 (三原屋って、こんな感じだったっけ?) 定彦が最後に来たのは玉芳が花魁になった時である。 (そうか……もう十年以上か……) 定彦は、自身の年齢も実感してしまう。 そこに采が受付で待っていた。 「久しぶりだね、定彦。 今日は、たんまり持ってきたんだろうね?」 そう言って采がニヤッとすると 「相変わらず、采さんは元気ですね。 今回は両でお支払いになりますが構いませんか?」 「構わないよ。 それで……持ち合わせを見ようかい」 采がキセルを持ちながら待つと、 「以前に采さんから頂いた両を全て……」 定彦が見せたのは、玉芳が花魁になる前に『授業料』として出した両だった。 それは采が出した金である。 「お前、あの時のまま……」 「はい。 風呂敷もそのままです」 定彦がニコッと微笑む。 お互いに言葉が出ないまま数分が経った。 そこには当時の事が思い出されている。 (そこまでして梅乃を指名するんだ。 何かがある……) 采は頭をめぐらせている。 「じゃ、定彦さん……」 梅乃が手を見世の奥に向けると、定彦は黙って三原屋の中に足を向ける。 「それで、どんな座敷なんでしょう?」 定彦はキョロキョロと見世の中を見回すと、 「お二階でございます……」 そこで案内係として千が頭を下げる。 二人は二階へ上がっていく。 『クイッ―』 采が顎で合図をすると、数名の妓女が配置へつく。 階段に下や、見世の外まで妓女が散っていく。 何かあった場合の対策である。 定彦が屋根から逃げないようにや、突破されないようにと厳重な態勢が敷かれていた。 ここは吉原。 何があってもおかしくない。 そして二階へ案内されると、そこは…… 「ここは玉芳花魁の部屋でした。 そして、私と小夜が育った部屋です」 梅乃が部屋の説明をすると、 「ここが玉芳の……」 定彦がキョロキョロしている。 「はい。 ここでずっと私たちは赤子の頃を過ごしました…… そして、いつかは小夜が花魁になって受け継ぐ予定です」 梅乃が話すと、 「梅乃ちゃんは花魁にならないのかい?」 「実は、あまり興味がなくて……」 梅乃は苦笑いをしながら頭を掻く。 「なんで

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第六十話 笑う三日月

    第六十話    笑う三日月夕方、引手茶屋に向かう梅乃は勝来と千と一緒だった。 「最近、勝来姐さんの共をしてなかったな~」 「お前が誰かを贔屓にしていたんじゃないかい?」 勝来が笑いながら梅乃を見ると、 「贔屓というか、お婆に目を付けられたから……」 シュンとしていた。 ここ最近、梅乃は遣り手の席が多い。 本当に妓女にしたいのか疑問に思ってきていた。 「それは梅乃さんが凄いってことですよね?」 ここで千が会話に参加すると 「そうとも言うな……私や菖蒲姐さんでも遣り手の席は無理だから……」 勝来が言うと、千は不思議そうな顔をする。 「どうしました? 千さん」 梅乃が顔をのぞき込むと 「今、遣り手の席はお婆と、梅乃さんと信濃姐さんですよね? 信頼されているんだな~と」 遣り手は帳簿や金の管理をする。 見世にとって重要なポジションだ。 その大役を信濃や梅乃に任せることが出来る采の度胸も凄かった。 千堂屋に入ると 「お前たちは待ってなさいね。 それに梅乃……お前は特にだからな! 千、ちゃんと見張っておきなさいよ!」 勝来が釘を刺すと、奥の座敷に入っていく。  「梅乃さん、どうして勝来姐さんに言われたのです?」 千が興味本位で聞くと、梅乃は数々の失敗を話した。 引手茶屋で待っている時にも玲を追いかけていったり、気になれば飛び出して命を落とす寸前までいったことなど…… (壮絶すぎる……それでも行こうとするから釘を刺されてるなんて……) 千は梅

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第五十九話 椿と山茶花

    第五十九話 椿《つばき》と山茶花《さざんか》 明治七年 正月。 「年明けですね。 おめでとうございます」 妓女たちは大部屋で新年の挨拶をしている。 すると文衛門が大部屋にやってきて、 「今日は正月だ。 朝食は雑煮だぞ」 そう言うと片山が大部屋に雑煮を運んでくる。 「良い匂いだし、湯気が出てる~♪」 この時代に電子レンジはない。 なかなか温かいものを食べられることは少なかった。 「まだまだ餅はあるからな。 どんどん食べなさい」 妓女たちが喜んで食べていると、匂いにつられた梅乃たちが大部屋にやってくる。 「良い匂い~」 鼻をヒクヒクさせた梅乃の目が輝く。 「梅乃は餅、何個食べる?」 片山が聞くと 「三つ♪」「私も~」 小夜も三本の指を立てている。 「わ 私も三つ……」 古峰も遠慮せずに頼んでいた。 「美味しいね~♪」 年に一回の雑煮に舌鼓を打つ妓女たちであった。 この日、三原屋の妓女の多くは口の下を赤くしている者が多い。 「まだヒリヒリする……」 餅を伸ばして食べていたことから、伸びた餅が顎に付いて火傷のような痕が残ってしまった。 (がっつくから……) すました顔をしている勝来の顎も赤くなっていた。 梅乃たちは昼見世までの時間、掃除を済ませて仲の町を歩いている。 そこには千も一緒だった。 「千さん、支度とかはいいの?」 小夜が聞くと、 「私は張り部屋には入れませんので……」 千は新造であり、まだ遊女のようには扱われない。 それに入ったとしても妓女数名からは良く思われていないので、入ったら険悪なムードに耐えきれないのも分かっていた。 「それに、三人と仲良くしていた方が私としても嬉しいので……」 千が言葉をこぼすと、梅乃たちは顔を下に向ける。 「私、何か変な事をいいました?」 千がオロオロすると、 「なんか、嬉しくて……」 小夜が小さな涙をこぼす。 「う 梅乃ちゃんと小夜ちゃんは大変な時期を送っていました。 わ 私もだけど……」 古峰の言葉は千にとっても重い言葉だった。 気遣いの子が苦労話をすることで、余計に納得してしまうからだ。 「でもね。 私たちは三原屋だから良かったんだ」 小夜がニコッとする。 「う うん。 私も」 古峰も微笑むと、千はホッとした表情になる。 「梅乃~ 小夜~」 仲の町で呼ぶ声が聞こ

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第五十八話 魅せられて

    第五十八話    魅せられてそれから梅乃たちは元気がなかった。玲の存在を知ってしまった梅乃。 それに気づいた古峰。 それこそ話はしなかったが、このことは心に秘めたままだった。しかし、小夜は知らなかった。(小夜ちゃんには言えないな……)気遣いの古峰は、小夜には話すまいと思っていた。 姉として、梅乃と小夜に心配を掛けたくなかったのだ。それから古峰は過去を思い出していく。(あれが玲さんだとしたら、似ている人……まさか―っ)数日後、古峰が一人で出ていこうとすると「古峰、どこに行くの?」 小夜が話しかけてくる。「い いえ……少し散歩をしようと思って」「そう……なら一緒に行こうよ」 小夜も支度を始める。 (仕方ない、今日は中止だ……) そう思い、仲の町を歩くと 「あれ? 定彦さんだ…… 定彦さ~ん」 小夜が大声で叫ぶと “ドキッ―” 古峰の様子がおかしくなる。 「こんにちは。 定彦さんはお出かけですか? 今度、色気を教えてくださいね」 小夜は化粧帯を貰ってから色んな人に自信を持って話しかけるようになっていた。「あぁ、采さんが良いと言ったらね」 定彦がニコッとして答えると、「古峰も習おうよ」 小夜が誘う。「は はい

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status